40人の雪嶽山   異体同心      

 ドラの音が響いた。「出航じゃ甲板へ出よう」誰かが立ち上がった。
フエリー内のレストランで毎度恒例の宴会が始まろうとする時だった。

全長百六十二Mの関釜フエリー「はまゆう」の巨体が悠揚と釜山港を離岸している。
釜山の美しい夜景が静かに静かに眼前を流れ去る。急に込み上げてきた。涙が溢れ出た。

拭っても拭っても滂沱として頬を伝い、夜景が滲む。珠玉の如き5日間だった。
感動・感嘆・驚嘆焦燥・緊張・不安・爆笑、そして安堵。
何と言う5日間だったか.

仲間達や幾多の先輩達へ感謝の念・安堵感・充実感・そして二年近くの紆余曲折。
諸々の想いが混然一体となり脳裏を駆け巡る。宴会は場所が変わり大部屋の寝場所に移っても続く。

呑み過ぎた私は途中で横になった。仲間達の穏やかな談笑が耳に心地よい。
明朝、下関港にオート観光のバスが待機している。それに乗りさえすれば良い。

乗りさえすれば福山に帰れる。全員笑顔で帰宅出来る。笑顔で解散出来る。
高速艇組は釜山市郊外で渋滞に巻き込まれたが間一髪で出航に間に合ったとの連絡は山内会長から入っていた。
慌ただしい移動の挙句、昼食は可哀想にパンだったらしい。

聞いた時私は腹を抱えて大笑いしたが時間的に彼らを乗せた新幹線は間もなく福山駅に滑り込む。
最終目標の「全員無事故・笑顔で解散」が、まさに現実化しつつあった。


「異体同心ならば万事を成す」と云う言葉が有る。趣味で集った40人の集団が近いとは言え外国の山を目指したのである。
当然の話だが言葉が通じない。絶対無事故に必要不可欠な必須条件の最たるモノは「全員が心を一つにする」事と断言したい。

雪嶽山登山が主題だったが前後に重要なイベントが二度有った。何度イメージしても、どの場面を想像しても全容が掴めない。
空想すら出来ない未知の領域であり課題は大きかった。

福山山岳会創立以来九十年の歴史を考える時、延べ会員数は何千人だろうか、
多くの諸先輩の幾多の山行が蓄積されたと言う大前提と九十年間の歳月が有っての記念事業である。
  

もう一つの記念事業の「ヒマラヤ探訪の旅」は黒飛氏を中心に実施され無事故で成功を収められている。
不安と緊張と焦燥感だけが重く圧し掛かっていた。更なる課題も有った。

この事業を立案した時点で承知していた事では有るが、韓国内での移動距離は約1千q。
諸々のポイントに対しての時間配分。入港する釜山は韓国の南端に近い。

目的の雪嶽山の玄関と言える束草(ソクチョ)市は韓国で最も北朝鮮に近い市で
市内北部の展望台から軍事境界線が一望できる地域である。

雪嶽山は北緯37度45分に位置するから軍事休戦ラインの38度線は眼と鼻だ。
朝鮮半島の東海岸韓国領域をバスで往復する。肝心の浦項市との位置関係と行事の時間帯、その間の観光をも含む。

肝心の参加人員数の最終確定が流動的な時期に、この全行程を浦項側と交渉検討し、
山内会長と私の要望を考慮の上、何度も組み替えざるを得なかった金夫妻の心労は察するに余りある。
しかし金夫妻の労苦は報われた・・・と云えば?夫妻に失礼かな?少なくても会長と私の杞憂は安堵に変わった。

参加者全員で盛り上げてくれた!盛り上げ要員が日替わりメニューの如く出現してくれた!
全員の心は一つになっていたのである。どの局面も大成功だった。
今にして思えば十月六日、
福山での最終説明会に参加希望者全員が出席してくれていた。あの時点で今回の大成功の因が在ったのか。

諸天の加護も「有難う御座いました」の一言に尽きる。全行程が抜けるような晴天だった。  

改めて人の優しさも骨身に沁みました。
特に浦項山岳連盟からボランテイアで馳せ参じてくれた5人の屈強な男達の優しさは本当に頭が下りました。
韓国の方々の真心に心から感謝し韓国に対する私の認識は根底から変わりました。

逆に私事ながら、出発前に仕事中、不注意から怪我入院して「
行住坐臥」もままならない身で参加したものの、
到着と同時に口内炎が三ヵ所発症し余計な心配と迷惑をかけました。

俗に「喰いもんの恨みは云々」と言う言葉が有りますが、口内の痛みで満足に食する事が出来ない私に
偶然タマタマ向かいに座った仲間が決められた役目の如く「毒見」ならぬ「味見」をしてくれて
私の食べられるモノを選別して戴いたり皆様から色んな場面状況の度に温かい配慮と優しさを頂き心から感謝しています。

最後になりましたが今回の事業の大成功の陰には金成萬さん肌野有紀さんご夫妻の約二年間に亘る人知れぬご苦労と、
片章燮(ピョンジャンソプ)さんの誠意溢れた温かい支えが有りました。

そして、云うまでも無く参加者の皆様全員が心を一つにくれました。
この場をお借りし改めて心からの感謝の意を表したいと思います。


チョンマルカムサハムニダ!!

追記 

願わくば、十年後の百周年記念は再度!雪岳山を目指したい!再び雪岳山へ行きましょう!!
 

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